ハンドメイドの楽しさを広める伝道師
「ソーインググッズ福屋」
滝口三枝子さん
昔は何でも手作りだった。子どもの服は母親が縫い、ほころびや取れたボタンは自分で直したものだった。しかし今や、ミシンのない家庭も増え、小・中学校の授業から裁縫の時間が消えつつある。
こんな時代だからこそ、もう一度手作りの良さを伝えたい…。「ソーインググッズ福屋」の滝口三枝子さんが奮闘している。
三枝子さんは、みんなから慕われる“看板おばちゃん”
今から約70年ほど前、同店の前身となる古着店が創業、その後古着の需要減少とともに洋裁材料店に転換した。時代はちょうど和装から洋装にうつり変わり、米沢市内にも洋裁学校ができ、店は洋裁材料を求める人たちでにぎわった。滝口家に嫁いだ三枝子さんは、洋裁学校の出身。客の良きアドバイザーになった。
時代とともに世の中には物があふれはじめ、洋服も家で作るものから買うものへと変わっていった。特に米沢は共稼ぎ率が高い地域ということもあり、洋裁をする家庭が減少。そこで同店では、従来の洋裁用品に加え、趣味として人気が出始めた手芸の用品も扱い始めた。
手芸用品の主力である毛糸を扱う以上、編み物のアドバイスもできなければならない。三枝子さんは、子育てをしながら編み物教室に通い、指導員の資格を取得した。
「当時は編み物ブーム。若い女性が学校帰りや仕事帰りに店に来て、わからないところや編み方などを義母(=三枝子さん)に教えてもらっていたそうです」と話すのは、現在三枝子さんとともに店を切り盛りする幸(みゆき)さん。 「義母が休みの日にたまたまいらしたお客様が、『おばちゃんいる日にまたくるわ』と言ってすぐに帰ってしまうこともよくあります(笑)」
三枝子さんは、まさに同店の“看板娘”ならぬ“看板おばちゃん”。三枝子さんを慕って通ってくる人も多い。店のチラシに三枝子さんの写真を載せたところ、来店客が増えたという逸話もある。
「写真を見て懐かしくて久しぶりに来てみたという人が本当に多かったんです。義母がどれだけみんなに慕われているか改めて感じました」。
手芸を通してコミュニケーションの輪を広げたい
同店の2階では、定期的にカルチャー教室が開催されている。各方面から講師を招き、洋裁や編み物、パッチワーク、ねんど細工などを教えている。
「カルチャー教室は、人が集まるいこいの場。特に冬場は外に出るのがおっくうになりがちですから、教室を受講することで外出のきっかけにもなっているようです」。
また月に数回、ボランティアとして老人ホームをまわり、手芸を教えているそうだ。三枝子さんは、手芸を通してコミュニケーションの輪を積極的に広げている。
手芸も一時期ほどの人気はなくなっているそうだが、取材でおじゃました時も同店にはひっきりなしに客が来店し、手芸ブームが下火であることを感じられないほどだった。それだけ三枝子さんの人気は絶大ということだろう。
今はボタンが高いため、ボタンが取れても付け替えせずに服を捨ててしまう人も多いという。“もったいない”が叫ばれる世の中、すぐに捨ててしまわず直して着続けてみてはどうだろう。きっと手芸やハンドメイドの面白さに気付くはずだ。
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