昔ながらの和菓子の味を伝えたい
「ゐのや」店主
長谷川吉郎さん
お菓子と聞いてスナック菓子を思い浮かべるのは、どの世代以降だろうか。日本人にとってお菓子といえば、あんこの入った和菓子だった。甘くておいしいだけでなく、栄養豊富でヘルシー。そんな日本の優れた食文化を後世に残そうと頑張っている人がいる。「ゐのや」店主の長谷川吉郎さんだ。
伝統の製法を守りながら、時代に合ったお菓子を開発
「ゐのや」は、明治30年創業の老舗の菓子店だ。長谷川さんで3代目となる。先代がお店を守っていた戦中・戦後は、お菓子はぜいたく品とみなされ、材料も手に入らないことから製造を中止、配給用のコッペパンを作っていたという。昭和26年に店舗を持たない製造・卸専門業者として業務を再開した。
長谷川さんは先代である父に師事し、菓子づくりを基礎から学んだ。
「昔は手取り足取り教えるということはなかった。隣で父の手元を見て、技を盗んだものです」。
創業から受け継がれている伝統の製法を守りつつ、その時代時代に合わせた味に少しずつ作りかえていった。現在、店の看板商品である「六方焼」は、何か新しい商品をと考えた先代と長谷川さんが親子で研究し、完成させたお菓子だという。
長谷川さんは、和菓子の要ともいえるあんこにもこだわっている。
「あんこには大納言という種類のアズキがよく使われますが、ウチでは北海道産の雅(みやび)というアズキを原料に使っています。小粒ながら味が良く、ゐのやの菓子に欠かせません」。現代の味覚に合わせて甘さもひかえめにしてあるという。
若い世代にこそ、本物の和菓子を味わってもらいたい
現在の店舗を構えたのは、平成2年から。併設の菓子工房でつくったお菓子は従来通り小売店に卸しているほか、「ゐのや」店頭で買い求めることができるようになった。
健康志向ブームもありアズキの良さが見直されてきつつあるが、一方和菓子離れは進んでいる。昔は米沢市内に90軒余りあった和菓子屋も、今では38軒にまで減少。「ゐのや」は、その厳しい状況の中で伝統の味を残そうと頑張っている店の一つだ。その功績は平成3年に「米沢市保健所優秀店舗」として称えられている。
コンビニやスーパーマーケットなどでも手軽に和菓子が買える昨今だが、保存料などの添加物が入っていない本来の味を楽しめるのは専門店だからこそ。「ゐのや」の味を懐かしんで、県外から買いに来る人もいるという。
「子どもへのお土産に、といって時々買いにいらっしゃるご夫婦がいます。お二人とも米沢のご出身で、お子さんに小さい頃からウチのお菓子を食べさせていたらしいんです。大きくなられたお子さんが、懐かしがって食べたいと言ってくれているそうなんですよ」と、長谷川さんは嬉しそうに話す。
機械で大量生産されたお菓子にはない、上品でどこか素朴で温かみのある本物の味がここにある。和菓子をあまり食べない若い世代にこそ、ぜひ味わってもらいたいものだ。一度本物のおいしさを知れば、きっと和菓子が好きになるはずだから。
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